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夕飯の食卓で、子どもが梅干しをひと口かじって顔をくしゃくしゃにしたあと、「なんでこんなに酸っぱいの?」と聞いてくる。「塩で漬けてあるからだよ」と言いかけて、あれ、塩ってしょっぱいのであって酸っぱくないよな、と止まってしまう方は多いと思います。台所に立って何年もたっていても、意外と答えられない質問なんですよね。
先に結論をひとつ。梅干しの酸っぱさは、塩ではなく梅の実そのものに入っている酸から来ています。塩は塩味を担当していて、酸っぱさとは別の担当なんですね。じゃあ漬ける工程は何をしているのか、なぜ梅干しによって酸っぱさが違うのか。子どもに説明できる言葉で、順番に見ていきましょう。
酸っぱさの正体——梅の実に入っている「有機酸」
青梅や完熟梅をかじると、漬ける前からもう酸っぱいですよね。あれがそのまま答えです。梅にはクエン酸やリンゴ酸といった「有機酸」と呼ばれる成分がもともと含まれていて、これが舌で酸っぱさとして感じられます。レモンやみかんが酸っぱいのと、仕組みは同じ仲間です。
- クエン酸。かんきつ類にも多い酸で、梅の酸っぱさの中心になる成分です。名前は聞いたことがある方も多いと思います
- リンゴ酸。名前のとおりりんごにも入っている酸。青い梅に多めで、熟すにつれて割合が変わっていきます
- ほかにもいくつかの酸が少しずつ入っていて、そのバランスで「梅らしい酸っぱさ」になります
子どもに説明するなら、「梅は生まれつき酸っぱい果物なんだよ。塩をかけたから酸っぱくなったんじゃなくて、もともと持っている酸っぱさが、干して縮んだぶん濃くなったんだよ」——これならだいたい通じると思います。「じゃあレモンの仲間?」と返ってきたら、ちゃんと伝わっている証拠です。
塩なのに酸っぱいのはなぜ?——しょっぱさと酸っぱさは別の担当
ここが、いちばん引っかかるところだと思います。梅干しは塩で漬けるのに、口に入れた時の第一印象は「酸っぱい」。混乱しますよね。
味には、甘い・しょっぱい・酸っぱい・苦い・うま味という基本の柱があって、それぞれ別の成分が担当しています。塩が担当するのは「しょっぱい」だけ。塩をどれだけ入れても、それ自体が酸っぱさに変わることはありません。梅干しを食べた時に感じているのは、梅の酸と塩のしょっぱさが同時に来ている状態なんです。
おもしろいのは、この2つが重なるとお互いを強く感じさせること。塩気があると酸っぱさがくっきりして、酸があると塩気も立って感じられます。だから梅干しは、レモンより酸が少なくても「強烈に酸っぱい」と感じるんですね。塩だけを舐めた時とも、梅の実だけをかじった時とも違う衝撃があるのは、この重なりのせいです。
漬ける過程で何が起きているか——塩・梅酢・干す
では塩は何をしているのか。工程を追うと、役割がはっきりします。
- 塩をまぶす。塩は梅の実から水分を引き出します。数日で梅がひたひたの液に浸かった状態になり、この液が梅酢です。梅酢には梅から出た酸も溶け込んでいるので、あれ自体がとても酸っぱい
- 水分が抜けて、傷みにくくなる。水分が減って塩分が高い状態は、傷みの原因になるものが増えにくい環境です。ただし「絶対に傷まない」わけではなく、白いものが浮いたりカビたりすることはあります
- 土用干し。夏の日ざしに何日か干して、さらに水分を飛ばします。ここで実がぎゅっと縮み、酸も塩も相対的に濃くなる。梅干しがあれほど強い味なのは、この「縮んだ」ぶんが大きいんです
- 寝かせる。しばらく置くと角がとれて、味がなじんでいきます
つまり塩は酸っぱさを作っているのではなく、水を抜いて保存できる形にする役。酸っぱさは最初から梅の中にあって、干すことで凝縮されている。そう整理すると、あの味の成り立ちがすっきり見えてきます。
種類で酸っぱさが違うのはなぜ?——3つの変数
スーパーの棚に並ぶ梅干しは、同じ「梅干し」という名前でも味の幅がとても広いですよね。子どもが食べられるものもあれば、大人でもむせるものもある。違いを作っているのは、だいたい次の3つです。
- 品種と熟し具合。大粒でやわらかい南高梅、小さくてこりっとした小梅、それぞれ持ち味が違います。青いうちに漬けた梅は酸が立ちやすく、完熟してから漬けた梅は酸が丸く感じられる傾向があります。皮の厚さや果肉のやわらかさも、酸っぱさの感じ方を左右します
- 塩分の濃さ。塩を控えたものは、しょっぱさが引くぶん相対的に酸っぱさが前に出て感じられることがあります。「減塩だと酸っぱさも減る」と思われがちですが、酸の量そのものは塩とは別の話なので、必ずしも減りません。塩を控えたものは傷みやすくもなるので、保存は冷蔵庫で、表示に従ってください
- 調味液に漬けてあるか。はちみつ漬け、かつお梅、しそ漬けなど、いったん塩抜きしてから調味液に漬け直したものは「調味梅干し」と呼ばれる作りです。甘みが加わると酸っぱさはかなり和らぎます。パッケージの品名や原材料を見ると、どちらなのか分かりますよ
酸っぱいのが苦手な家族がいるなら、「完熟・低めの酸・調味液入り」の組み合わせから試すと食べやすいです。逆に「これぞ梅干し」を求めるなら、塩と梅だけで漬けた昔ながらのものへ。
酸っぱさを和らげる食べ方——捨てなくても大丈夫
いただき物の梅干しが酸っぱすぎて残っている、という相談をときどきもらいます。もったいないので、和らげる手をいくつか。
- ごはんやお茶と一緒に。ごはんのでんぷんやお茶と合わせると、口の中で酸が薄まって食べやすくなります。おにぎりの具にするのが結局いちばん自然
- 加熱して料理に使う。梅は加熱すると角がとれて、酸っぱさが「風味」に変わります。鶏肉と煮る、いわしと煮る、きゅうりや大根と和える、うどんのつゆに落とす。細かくたたいて和え物にすると、食べる量が一気に増える、という声も多いです
- はちみつ漬けなどの調味梅干しに切り替える。買う時点で選び直すのがいちばん確実です。ただしはちみつを使ったものは1歳未満の子に与えないという決まりごとがあるので、そこは必ず守ってください
- 塩抜きをする。水か薄い塩水に浸けて時間で調整する方法です。しょっぱさが抜けると、酸っぱさの感じ方もずいぶん穏やかになります。手順は梅干しの塩抜きの記事にまとめました。塩を抜いたぶん日もちが短くなるので、抜いたものは冷蔵庫に入れて早めに食べきってくださいね
- 細かくたたいて量を減らす。1粒まるごとだと強すぎても、たたいて薬味のように少しずつ使えば、酸っぱさが得意でない人でも受け入れやすくなります
ゆきこ( ゚Д゚)『「なんで酸っぱいの」に「塩だからよ」と答えかけて止まる、という話は本当によく聞きます。「梅がもともと酸っぱいの」と言い直したら「じゃあ塩は何してるの」と重ねてくる、というのも子どもらしいですよね。子どもの質問はいつも二段構えだと思います』
気をつけたいこと——歯・塩分・小さな子
おいしく食べるための注意も、いくつか書いておきます。梅干しについては「体にいい」という話をあちこちで見かけますが、疲労回復や殺菌といった効果を私が言い切ることはできません。食べ物としておいしくいただく、という前提で読んでいただけたらうれしいです。
- 歯にしみる時。酸っぱいものを口にしたあとに歯がしみるのは、酸に触れて歯の表面が一時的にやわらかくなっているためと言われます。食べたあとすぐ強く磨かず、まず水やお茶で口をすすいで、しばらく置いてから歯みがきを。しみるのが続く・痛みがある時は歯科で診てもらってください
- 塩分の摂り過ぎ。梅干しは塩分の多い食品です。1日にいくつまで、という数を私が決めることはできません。血圧や腎臓など持病があって食事の指示を受けている方は、主治医や管理栄養士に相談してください
- 1歳未満のお子さん。塩分の面でも、のどに詰まらせる危険の面でも、梅干しは1歳未満の子には向きません。小さな子に食べさせる時は、必ず種を外して、細かくたたいて、量をごく少なくして。種は絶対に子どもの手の届く所に置かないでください
- 保存とカビ。白いものが浮いていると不安になりますよね。塩の結晶や産膜のこともあれば、カビのこともあります。見分け方は梅干しのカビの見分け方と白い膜の正体の記事に。迷ったら食べないのがいちばんです
酸っぱさの質は、梅の品種と漬け方でずいぶん変わります。「梅干しはどれも同じ」と思っていた頃は苦手だったのに、産地や作りを変えたら食べられるようになった、という話も珍しくないんですよね。
あわせて読みたい
酸っぱさやしょっぱさを和らげたい時は梅干しの塩抜きのやり方へ。買ってきた梅干しをどこにどう置くかで迷ったら梅干しの保存の記事を。表面に白いものが出た時はカビの見分け方と白い膜の話をあわせて読んでみてください。
まとめ:酸っぱさは梅から、しょっぱさは塩から
- 酸っぱさの正体は梅にもともと入っている有機酸。塩ではない
- 塩は水分を抜いて保存できる形にする役。しょっぱさの担当
- 干して実が縮むことで、酸も塩も濃くなり味が強くなる
- 酸っぱさの差は品種・熟し具合・塩分・調味液で決まる
- 和らげるなら加熱・塩抜き・調味梅干し。1歳未満の子には与えない
保存版:この記事の早見表
手順を1枚にまとめました。



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