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剃るたびに音が大きくなってきた、なんとなく引っかかる感じがする。取扱説明書を見ると「専用オイルを差してください」と書いてあるけれど、そんなもの家にはない。そこでふと目に入るのが、台所のサラダ油だったり、洗面所のベビーオイルだったり、工具箱の潤滑スプレーだったりします。「油は油でしょう」と思ってしまうのは、たぶんとても自然なことです。
ただ、電気シェーバーというのは金属の刃と、樹脂やゴムの部品と、人の肌が、数ミリの距離で同居している機械です。そのせいで「油ならなんでもいい」が、いちばん通らない場所になっています。代用できるかどうかを分けているのは、実は二つだけ。その油が樹脂やゴムを侵さないかということと、粘度がじゅうぶんに低いかということ。この二つで、家にある油はほとんどふるい落とされてしまいます。
そこでこの記事では、先に使ってはいけないものを置いて、そのうえでオイルが何のためにあるのか、代用としてよく名前の挙がるものが実際どうなのか、そもそも注油が要らない機種があること、そして正しい差し方までを順に見ていきます。結論からいえばこの記事は「代用できます」という着地にはなりません。その理由のほうを、なるべく仕組みから書いていきます。
先に置いておきます——食用油・ワセリン・潤滑スプレーは代用品になりません
代用の話をする記事だからこそ、ここを最初に書いておきたいところです。サラダ油・オリーブオイル・ごま油などの食用油、ワセリンや軟膏のたぐい、そして機械用の浸透潤滑スプレー。この三つは、電気シェーバーのオイルの代わりになりません。「一滴だけなら」「応急処置として一回だけなら」という例外もありません。それぞれ、起きることが違います。
まず食用油。これがいちばん身近で、いちばん厄介です。食用油は植物の油、つまり不飽和脂肪酸を多く含む油で、空気に触れると酸素と結びついて別の物質に変わっていきます。台所の換気扇まわりや、しばらく使わなかった油の瓶の口が、べたべたを通り越してあめ色の固い膜になっているのを見たことがあるかもしれません。あれが酸化重合と呼ばれる変化で、油が樹脂のようなものに変わった状態です。シェーバーの刃のあいだでこれが起きると、内刃と外刃が樹脂状の膜で貼りつき、動きが重くなり、切れ味が落ちます。しかも固まってしまえば水では落ちず、家庭で取り除くのはほぼ無理です。
やっかいなのは、差した直後は調子がよく感じられるところです。油であることに変わりはないので、一時的にはすべりがよくなります。悪くなるのは数日から数週間あとで、そのころには原因が油だったと結びつきにくくなっています。「オイルを差したのにかえって悪くなった」という話の多くは、この時間差の中で起きています。においが出るのも同じ理由で、酸化した油脂は独特のにおいを放ちます。シェーバーが臭くなる原因のほうにも書いていますが、においの正体はヒゲくずと皮脂と油の混ざったものなので、そこに食用油を足すのは火に油、という言葉どおりの状況になります。
次にワセリンや軟膏のたぐい。こちらは酸化ではなく、単純に粘度の問題です。ワセリンは常温で半固形、指ですくえるほどの固さがあります。電気シェーバーの内刃は、外刃のごく薄い金属板の裏側を、毎分数千回から一万回を超える速さで往復あるいは回転しています。その隙間に固形に近いものを入れれば、動きを助けるどころか妨げます。モーターに余計な負荷がかかり、発熱が増え、電池の持ちも落ちます。肌に塗るものとして優秀であることと、精密な機械の潤滑に向いていることは、別の話です。
そして機械用の潤滑スプレー。自転車のチェーンや錆びたネジに使う、あのタイプのものです。これがいちばん、はっきり避けてほしいものになります。理由は三つあります。
- 樹脂やゴムを侵す成分を含むものがあります。浸透性を高めるために溶剤が配合された製品が多く、製品によってはプラスチックやゴムのパッキンを膨らませたり、ひび割れさせたりします。シェーバーの本体、刃を支える枠、防水のためのパッキンは、多くが樹脂とゴムでできています
- 可燃性です。多くはスプレー缶で、噴射剤も内容物も燃えます。電気製品の内部、しかもモーターと接点のある場所に吹き込むものではありません
- 肌に触れる前提で作られていません。シェーバーは顔にあてる道具です。刃に残った成分は、そのまま肌にのります
これらはいずれも、メーカーの想定外の使い方です。代用によって不具合が起きた場合、保証の対象外になります。修理に出しても「指定以外の油脂の使用」と判断されれば、無償修理は受けられません。
そもそもオイルは何をしているのか——摩擦・熱・音・錆の四つ
使ってはいけないものが分かったところで、そもそもあの一滴が何をしているのかを見ておくと、なぜ代用が難しいのかが腑に落ちやすくなります。役割は主に四つあります。
ひとつめは、刃と刃のあいだの摩擦を減らすこと。電気シェーバーは、穴のあいた薄い外刃に肌をあて、そこから入ったヒゲを、外刃の内側を高速で動く内刃が切り取る仕組みです。二枚の金属は、ほとんど接するくらいの距離で擦れ合っています。ここに油の膜がないと、金属どうしが直接こすれて摩耗が進みます。刃の寿命を縮める、いちばん大きな要因です。
ふたつめは、熱を抑えること。摩擦は熱になります。剃っているうちにヘッドがじんわり温かくなるのは正常な範囲ですが、油が切れて摩擦が増えると、この熱が明らかに増えます。熱くなった刃を肌にあて続けるのは、肌にとってもうれしい話ではありません。
みっつめは、音を抑えること。「最近シェーバーの音が大きくなった気がする」という感覚は、けっこう正確です。金属どうしが直接こすれる音が増えているサインで、注油でかなり戻ることがあります。音の変化は、油が切れてきたことに気づくいちばん分かりやすい合図だと思います。
よっつめは、錆を防ぐこと。水洗いのできる機種を洗ったあと、乾かしきれずに水分が残ると、刃に錆が出ることがあります。油の膜は水と金属のあいだに入って、それを防ぎます。
この四つを同時にこなすために、専用オイルは非常に粘度の低い、酸化しにくい鉱物油を中心に作られています。ここが大事なところで、「よく伸びて、狭い隙間に入り込み、時間がたっても固まらず、樹脂やゴムを侵さず、肌に触れても差し支えない」という条件をすべて満たす必要があります。家にある油のほとんどは、このうちのどれかで落ちます。
「代用できる」とよく言われるものは、実際どうなのか
ネット上でよく名前の挙がるものを、二つの軸——樹脂を侵さないか、粘度は低いか——にあてて見ていきます。
ベビーオイル。これは判断が少し込み入っています。多くのベビーオイルの主成分はミネラルオイル、いわゆる流動パラフィンで、成分の系統としては専用オイルに近いものです。「ベビーオイルなら使える」という話が消えないのは、まったくの根拠なしというわけではありません。ただ、実際に使うとなると差が出ます。肌にとどまってほしい化粧品として作られているぶん粘度が高めで、香料や植物油などが加えられている製品もあります。狭い刃の隙間に薄く広がるという用途では、専用オイルより明らかに不利です。香料や添加された植物油は、時間がたつと粘つきの原因にもなります。メーカーが指定していない以上、これも保証の対象外です。「近いけれど、同じではない」というのが、いちばん正直なところだと思います。
ミシン油。こちらも、精密機械用の低粘度の鉱物油という点では性格が近い油です。ただし、ミシン油は金属部品を相手にすることが前提で作られています。防錆剤などの添加成分が樹脂やゴムにどう働くかは製品によって差があり、シェーバーのように樹脂の枠とゴムのパッキンに囲まれた場所で使うことを想定していません。そしてもうひとつ、ミシン油は顔にあてる道具のために作られていません。刃に残った油は、次に剃るときそのまま肌にのります。ここが、機械としての相性以前の問題として残ります。
食器用の潤滑剤や食品機械用オイル。まれに挙がりますが、入手のしやすさでも値段でも専用オイルに勝てないので、わざわざ選ぶ理由がありません。
シリコンスプレー。樹脂やゴムには比較的やさしいものが多い一方で、こちらもスプレー缶で可燃性、噴射範囲を絞りにくく、電気製品の内部に吹き込む用途ではありません。刃だけをねらって少量ということ自体が難しい道具です。
こうして並べてみると、「まったく使えないもの」と「近いけれど劣るもの」はあっても、「専用オイルの代わりに堂々と使えるもの」は出てこないのが分かります。そして代わりが見つからない理由は、専用オイルが特殊だからではなく、専用オイルがあまりにも安いから、そこを狙って作られた代用品が存在しないというほうが近いのだと思います。
代用候補の早見表——可否と、その理由
迷ったときに上から見ていけるように、まとめておきます。判断の軸は最初から最後まで「樹脂やゴムを侵さないか」と「粘度がじゅうぶん低いか」の二つだけです。
| 代用候補 | 可否 | 理由 |
|---|---|---|
| 専用のシェーバーオイル | これが正解 | 低粘度・酸化しにくい・樹脂を侵さない。数百円で買えます |
| サラダ油・キャノーラ油 | 不可 | 酸化重合して樹脂状に固まり、刃に固着します。故障の原因 |
| オリーブオイル・ごま油 | 不可 | 同上。においも強く出ます。落とすことはほぼできません |
| バター・マーガリン・ラード | 不可 | 固形。腐敗し、においと雑菌の温床になります |
| ワセリン・軟膏類 | 不可 | 半固形で粘度が高すぎ、刃の動きを妨げてモーターに負荷 |
| 浸透潤滑スプレー(機械用) | 不可 | 樹脂やゴムを侵す成分を含むものがある。可燃性。肌用ではない |
| シリコンスプレー | 不可 | 可燃性で、電気製品の内部に噴霧する用途ではありません |
| ベビーオイル | すすめません | 成分は近いが粘度が高く、香料等の添加物がある。保証対象外 |
| ミシン油 | すすめません | 低粘度だが樹脂への影響が製品ごとに不明。肌用ではありません |
| 水・アルコール | 潤滑にはならない | 洗浄はできても油膜は作れません。錆の原因にもなります |
表の「不可」に並んでいるものは、値段や手軽さの問題ではなく、そもそも用途が違うものです。これらを使ったことによる不具合は、いずれもメーカー保証の対象外になります。
その前に——そもそも注油が要らない機種があります
意外に見落とされがちなのですが、電気シェーバーのすべてに注油が必要なわけではありません。ここを先に確かめると、そもそもオイルを探さなくてよかった、ということが起こります。
- 自動洗浄器(洗浄充電器)に対応した機種——専用の洗浄液に潤滑の成分が含まれていて、洗浄のたびに刃へ油の膜がつくように作られているものがあります。この場合、別途オイルを差す必要はないとされていることが多くなります
- 水洗いができて、専用のクリーニング機能を備えた機種——同じく、洗浄と潤滑をまとめて扱う設計になっていることがあります
- 刃のユニットごと定期的に交換する前提の機種——注油よりも刃の交換時期のほうが管理の中心になります
逆に、注油が要ると書かれていることが多いのは、水洗いのできない乾式の機種や、洗ったあとに自分で乾かすタイプの機種です。見分け方はひとつしかなくて、取扱説明書の「お手入れ」の項目を見ることです。「注油」「オイル」という言葉が出てこなければ、その機種は注油を前提にしていない可能性が高くなります。説明書が手元になくても、多くのメーカーが型番から取扱説明書をたどれるようにしています。型番は本体のどこか、あるいは充電台の裏に、アルファベットと数字の組み合わせで書かれていることが多いです。
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純正オイルは数百円です。そして、それが結論になります
ここまで書いてきて、身もふたもない話になるのですが、シェーバー用のオイルは、そもそもとても安いものです。小さな瓶やスポイト付きの容器に入って、数百円程度で売られているのが一般的で、しかも一回に使うのは数滴なので、一本買えば相当に長く持ちます。代用を探す手間と、固着や樹脂の劣化で機械を一台だめにする危険を天秤にかけると、まず釣り合いません。
探すときのこつは、まず自分の機種のメーカーが専用オイルを出しているかを見ることです。出ていればそれがいちばん確実で、次点が「電気シェーバー用」「バリカン用」とうたわれた汎用のオイルになります。バリカン用と書かれたものはシェーバーにも使える前提の製品が多く、選択肢が広がります。「機械用」「精密機器用」とだけ書かれたものは、肌に触れる道具を想定していないことがあるので、用途の欄を確かめてから選ぶと安心です。
ちなみに、オイルを差しても切れ味が戻らないという場合は、油ではなく刃そのものの寿命であることがよくあります。外刃はおよそ一年、内刃はおよそ二年が交換の目安とされることが多く、これは使う頻度やヒゲの濃さでも変わります。刃を両方替えると、機種によっては本体の価格に近づいてしまうことがあるので、そこが買い替えを考える分かれ目になります。買い替えのほうへ気持ちが傾いてきたら、電気シェーバー選びで後悔しないためにのほうに、深剃りの力と手入れのしやすさをどう天秤にかけるかをまとめてあります。
オイルの正しい差し方——差しすぎは、むしろ逆効果です
せっかく専用オイルを用意しても、差し方しだいで効きがずいぶん変わります。難しいことは何もないのですが、ひとつだけ落とし穴があります。
- 先にヒゲくずを落としておく——油は汚れを閉じ込めてしまうので、ブラシで払うか水洗いできる機種なら洗って、しっかり乾かしてからにします。濡れたまま差すと、水と油が混ざって白く濁ることがあります
- 外刃の上から、左右に一滴ずつ——分解して内刃に直接塗る必要はありません。外刃の網目から油はちゃんと内側へ落ちていきます。ロータリー式なら、三つの刃のそれぞれに一滴ずつが目安です
- 電源を入れて、数秒だけ空運転する——刃が動くことで油が全体に広がります。ここをやらないと、一か所にたまったままになります
- 余分をティッシュで軽く押さえて拭き取る——表面に浮いている油は不要です。拭いても、隙間に入った分は残ります
- 頻度は、機種の説明書に従うのが確実——目安としてはお手入れのたび、あるいは月に一、二度と書かれていることが多いようですが、ここは機種差が大きい部分です
落とし穴というのが、差しすぎです。「効くならたくさん」と考えたくなるところですが、油が多すぎると、次に剃ったときのヒゲくずが油と混ざってペースト状になり、刃の隙間に詰まります。これは動きを重くするうえに、においのもとにもなります。足りないより多いほうが安全、が通らない場面です。数滴で足りるように作られている、と考えておくとちょうどよくなります。
油を差しても剃り味が戻らないとき、見るところ
注油はあくまで、原因のひとつに効く手当てです。剃り味が落ちる理由はほかにもあって、そちらだと油をいくら差しても変わりません。目を向けたいのは次のあたりです。
- 外刃に見えないひび割れや小さな穴がないか——外刃は驚くほど薄い金属です。落としたり、硬いものにぶつけたりすると変形します。変形した外刃は内刃と均等に接しなくなり、剃り残しが出ます
- 内刃が摩耗していないか——刃先が丸くなると、切るのではなく引っぱる動きになります。「痛い」「引っかかる」と感じるのは、たいていこちらです
- 電池がへたっていないか——回転数が落ちると、ヒゲを切る力そのものが弱くなります。充電直後はよく剃れるのに、すぐ切れ味が落ちるならこの疑いがあります
- 肌の状態と当て方——乾いた肌や、寝ぐせのように寝てしまったヒゲは、そもそも刃の穴に入りません
このあたりの切り分けは、電気シェーバーで深剃りできないときの原因のほうに、刃・肌・当て方の三つの系統に分けてまとめてあります。注油で戻らなかった場合は、そちらを順に見ていただくと、どこが原因かの見当がつきやすいと思います。
まとめ:分かれ目は「樹脂を侵さないか」と「粘度」、そこだけは動きません
- 食用油は使えません。酸化して樹脂状に固まり、刃に固着します。差した直後は調子がよく感じられるぶん、原因に気づきにくいのが厄介なところです
- ワセリン・軟膏は使えません。粘度が高すぎて、高速で動く刃の動きを妨げ、モーターに負荷をかけます
- 機械用の潤滑スプレーは使えません。樹脂やゴムを侵す成分を含むものがあり、可燃性で、肌に触れる道具のために作られていません
- ベビーオイルとミシン油は「近いけれど劣る」もの。成分の系統は近くても、粘度や添加物、そして肌に触れる前提かどうかで差があります。いずれもメーカー保証の対象外です
- そもそも注油が要らない機種があります。洗浄液を使う機種などは注油不要とされていることが多いので、取扱説明書の「お手入れ」の項目を先に確かめると早道です
- 専用オイルは数百円で、一本で相当に長く持ちます。代用を探す手間と機械を失う危険を考えると、ここに落ち着くのがいちばん軽く済みます
- 差しすぎは逆効果。外刃の上から数滴、空運転で広げて、余分は拭き取る。それで足りるように作られています
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使ってはいけない油と、その理由を1枚の画像にまとめました。スマホに入れておくと、洗面所で「これで代用できるかな」と手が伸びかけたときに、すぐ確かめられます。



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