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試し縫いをしてみたら、縫い目がなんだかもたついている。布をめくると糸がわっかになって浮いていて、指でつまむとするすると引き出せてしまう。こうなると「下糸がゆるいんだな」と思うのが自然ですし、そのまま検索窓に「ミシン 下糸 ゆるい」と打ち込むところまで、たぶんみんな同じ道をたどります。
ところが、ここに小さな行き違いが潜んでいます。「下糸がゆるい」と感じている時、糸がゆるんでいるのは下糸ではなく上糸のほう、という場合がかなり多いのです。布の裏側にたまった糸を見て下糸だと思い込み、ボビンをやり直したりネジを回したりしても直らない。そういう遠回りが起きやすいところでもあります。
見分け方じたいは、ほんの30秒で済みます。この記事では、まずその切り分けを置いてから、ボビンの入れ方、ボビンケースのネジ、ボビンそのものの規格、そして糸調子ダイヤルに手をかける前にやっておきたいこと、という順で見ていきます。最後に症状別の早見表も置いています。
先に30秒で切り分けます——糸が余っているのは裏ですか、表ですか
いらない布のはしきれを二枚重ねて、まっすぐ10センチほど縫ってみてください。糸は上下とも同じ番手のものを使って、模様は直線縫いのままにしておくと判断しやすくなります。縫い終わったら、その布をひっくり返します。
本来の縫い目というのは、上糸と下糸が布のちょうど厚みの真ん中で引き合って結び目をつくっている状態です。どちらか片方の引く力が弱いと、弱いほうの糸が反対側へ引っぱり出されて、そちら側にたるみとして現れます。つまり、糸が余って見える面の「反対側の糸」がゆるんでいる、ということになります。
- 布の裏側(下側)に糸のわっかが浮いている——引っぱり出されているのは上糸です。原因は上糸側にあります。いちばん多いのは、上糸のかけ方が途中でずれていること
- 布の表側(上側)に糸のわっかが浮いている、または下糸が表から見える——引っぱり出されているのは下糸です。原因は下糸側、つまりボビンまわりにあります
- 両面ともに糸が浮いてもたついている——上糸のかけ直しからやり直すのが早道です。上糸がまったく効いていない時に、こういう見え方をすることがあります
ここで裏側に余っていたのなら、この記事の続きよりも先に、ミシンの上糸がゆるい時の見直しどころのほうを見ていただくほうが近道です。上糸の道筋のどこでつまずいているかを、順を追ってまとめてあります。下糸をいくらいじっても、上糸が原因の症状はうんともすんとも言いません。
反対に表側に余っていたのなら、ここから先が本題になります。
電源のことだけ、先に固く書かせてください
ボビンを入れ直す、釜の掃除をする、針を交換する、ボビンケースを外す。針まわりと釜まわりにさわる作業の前には、必ずミシンの電源スイッチを切り、コンセントからプラグを抜いてください。「ちょっとだけだから」は通用しません。
理由は二つあります。ひとつはフットコントローラーの誤踏みです。足元に置いたコントローラーは、椅子を引いた時やペットが通った時、床に落ちた布がかぶさった時にも簡単に踏まれます。針の下に指を入れている状態でそれが起きると、そのまま針が下りてきます。もうひとつは自動針上下・自動糸切りの動作で、機種によってはボタンひとつ、あるいは特定の操作をきっかけに針や釜まわりが動きます。手を入れているタイミングで動く可能性がある以上、電源を落としてから作業するのが唯一の確実な方法です。
あわせて、針が曲がっている、先端がつぶれているものは、その場で新しいものに交換してください。曲がった針は縫っている最中に折れて飛ぶことがあります。折れた針の破片は必ず全部回収して、紙などに包んだうえでお住まいの自治体の決まりにしたがって捨ててください。
ボビンの入れ方は、二か所だけ間違えやすいところがあります
表側に糸が余るタイプなら、まずここです。ボビンをいったん取り出して、入れ直すところから始めます。ミシンの電源を切ってからふたを開けてください。
間違えやすいのは、ボビンを置く向きと、糸をみぞに通し切っているかの二か所に、ほぼ集約されます。
向き(回転方向)
ボビンは、糸が繰り出される時に決まった向きに回るように置くことになっています。逆向きに置いても縫えてしまうことがあるので厄介なのですが、その場合は糸にかかる抵抗が変わって、糸調子がゆるくなったり、逆に強くなりすぎたりします。
正しい向きは、水平釜か垂直釜か、そしてメーカーによっても違います。水平釜(ミシンの手前側に丸いふたがあって、そこへボビンをぽんと落とし込むタイプ)は、ふたを開けたところに向きの図が印刷されていることが多いので、まずそこを見てみてください。図が消えかかっている、あるいは見当たらない場合は、取扱説明書の「下糸の準備」のページに必ず載っています。垂直釜(ボビンケースという金属の入れ物にボビンを入れてから、釜へ差し込むタイプ)も同様で、ケースへ入れた時に糸端がどちら向きに出るかが決まっています。
「なんとなくこの向きだったはず」で入れているうちは、ここが原因かどうか切り分けられません。一度だけでも図と見比べておくと、以降ずっと迷わなくなります。
糸をみぞに通し切っているか
そして、こちらのほうがもっと多い原因かもしれません。下糸の張力は、ボビンから出た糸が細いみぞ(スリット)を通り、板バネの下をくぐることで生まれています。この道筋を通っていない糸は、ほとんど抵抗を受けないまま出ていきます。当然、ゆるゆるになります。
水平釜の場合は、ボビンを落とし込んだあと、糸を手前のみぞに引っかけて、案内にそって奥までしっかり引く動作があります。ここを途中で止めてしまうと、糸がみぞから外れてただ乗っているだけの状態になります。垂直釜の場合は、ボビンケースの切れ込みに糸を入れ、板バネの下を通して、先端の小さな穴や切り欠きから出します。板バネの下をくぐらせていない糸は、張力ゼロで出てきます。
通せているかどうかは、指で確かめられます。ボビンをセットした状態で糸端を軽く引いてみて、「つ、つ、つ」と一定の抵抗を感じながら出てくれば正解です。すーっと無抵抗で出てくるなら、どこかで道筋から外れています。垂直釜でボビンケースが取り外せるタイプなら、糸端を持ってケースをぶら下げた時に、するすると落ちずに、ゆっくり下がるか止まっているくらいが目安とされています。
ゆきこ( ゚Д゚)『抵抗がある=正しい、って発想がまずなかった』
ボビンケースのネジは回していいのか——釜の種類で答えが分かれます
ここが、検索してもいちばん混乱するところだと思います。「ボビンケースの小さいネジを右に回せば下糸が強くなる」という説明を見かける一方で、「素人が触ると戻せなくなる」という警告も出てきます。どちらも間違いではなくて、前提にしている釜の種類が違うのです。
垂直釜(ボビンケースを取り外すタイプ)の場合
ボビンケースの側面には、たいてい二本のネジがついています。小さいほうのネジが下糸の張力を調整するネジ、大きいほうは板バネそのものを留めているネジです。触っていいのは小さいほうだけで、大きいほうのネジは外さないでください。板バネが外れると、元の角度に戻すのがかなり難しくなります。
小さいネジを回す時の作法として、よく言われるのが次のあたりです。
- 今の位置に印をつけるか、写真を撮ってから回す——戻れなくなるのを防ぐ、いちばん確実な方法です
- 右に回すと強く、左に回すとゆるくなる——時計回りで板バネの押さえが増す、という理屈です
- 一度に回すのは、時計の文字盤でいえば5分ぶんくらいまで——ネジ1回転はとても大きな変化になります。少し回して試し縫い、をくり返します
- 作業は明るいところで、受け皿の上で——ネジは驚くほど小さく、落とすと二度と見つかりません
水平釜(ボビンを直接落とし込むタイプ)の場合
家庭用ミシンで今いちばん多いのがこちらだと思いますが、水平釜は、ボビンケースが本体に組み込まれていて、利用者が下糸の張力を調整することを前提にしていない機種がほとんどです。内釜のあたりに小さなネジが見えることはありますが、それは張力調整用とはかぎらず、位置決めのために留まっているネジであることもあります。ここを動かすと、針と釜のタイミングが狂って、目飛びや針折れにつながります。
そのため、水平釜で下糸が弱い時は、ネジを回すのではなく、ボビンの向き・糸の通し道・糸くずの掃除・ボビンの規格、という順に見ていくのが本筋になります。どうしても下糸の張力を変えたい用途(キルティングやフリーモーション刺しゅうなど)があって、それが機種として想定されている場合には、調整用の別売ボビンケースが用意されていることもあります。いずれにしても、水平釜のネジに手をかける前に取扱説明書を確認してください。メーカーが「調整不可」と書いている機種で回してしまうと、修理に出す以外の道がなくなります。
純正でないボビンが、原因になっていることがあります
意外に見落とされているのが、ボビンそのものです。手芸店で見かける「家庭用ミシンボビン」は一見どれも同じに見えますが、直径や厚み、素材、つばの形が規格として何種類かあり、そこがわずかに違うだけで下糸の出方が変わります。
とくに水平釜は、ボビンが釜の中で直接まわる構造なので、影響が出やすいところです。
- 厚み(高さ)が違う——ボビンが釜の中でがたつくと、糸が均一に出てきません。逆に厚すぎると引っかかり、途中で糸調子が急に変わります
- 素材が違う——金属のボビンとプラスチックのボビンでは重さが違い、回りはじめと止まりぎわの慣性が変わります。機種が指定していないほうを使うと糸調子が安定しません
- つばの縁がざらついている——安価なものや、落として傷が入ったものは、糸が縁に引っかかります
- 巻き方が偏っている——ボビンに糸を巻く時、片側に山ができていると、繰り出される時の抵抗が場所によって変わります。糸が均一に平らに巻けていることが前提です
手持ちのボビンがどれも同じ型かどうかは、机の上に並べて横から見比べると分かります。高さがそろっていない、色や素材がまちまち、というなら、まずは機種指定のものを一箱そろえてしまうほうが、原因の切り分けが早くなります。値段としてもそこまでの負担にはならないところです。
買う時に見るのは、メーカー名よりも「お使いの機種に対応しているか」の表記です。同じメーカーでも家庭用と職業用ではボビンが違いますし、世代によって変わっていることもあります。
糸調子ダイヤルを回す前に、済ませておきたいこと
症状が出ると、つい上糸の糸調子ダイヤルに手が伸びます。ただ、ダイヤルは「本来の状態が整っている前提で、布や糸に合わせて微調整するためのもの」なので、どこかが正しくセットされていない状態で回すと、症状を別の症状で打ち消すだけになります。あとから戻すのも大変です。次の五つを先に済ませてしまうと、そもそも回さずに済むことが多いところです。
- 上糸をかけ直します。いったん全部抜いて、最初からかけ直します。糸が糸案内を一つ飛ばしていたり、天びんの穴に入っていなかったりするのは、慣れている人でも普通に起きます
- かける時は、押さえを上げた状態で。これが最重要かもしれません。押さえを下げたままだと糸調子皿が閉じていて、糸が皿と皿のあいだに入らず、上を素通りします。この状態だと上糸の張力がまったくかからず、布の裏側に糸が盛大に余ります。「下糸がゆるい」と思って調べている症状の、かなりの割合がこれです
- 釜まわりの糸くずを取り除きます。電源を切って、ボビンを外し、付属のブラシで釜と送り歯の周りをはらいます。たまった綿ぼこりは下糸の通り道に入り込んで、抵抗をむらにします。掃除機の細いノズルがあれば、吸い出すほうが確実です
- 針の向きと状態を見ます。家庭用ミシン針は軸の片側が平らに削られていて、その平らな面を決められた向きに合わせて奥まで差し込みます。向きが逆だと目飛びして、糸調子が崩れたように見えます。向きは機種によって違うので取扱説明書で確認してください。また、針は消耗品です。先が丸くなった針は布に穴を開けられず、糸を引き込みます
- 上糸と下糸の番手をそろえます。上下で太さの違う糸を使うと、正しくセットしていても結び目の位置が真ん中からずれます。普通地なら60番の糸に11番の針、といった組み合わせが基本になります
ここまでやって、それでも表側に下糸が浮くようなら、はじめてダイヤルの出番です。回すのは少しずつ、そのつど試し縫いをして確かめるのが結局いちばん早い進み方になります。標準の位置がどこかは本体に印がついているので、迷ったら一度そこへ戻します。
症状・原因・先に試すことの早見表
縫い目の見え方から、どこを疑えばいいのかをまとめておきます。上から順に、手間の軽いものを並べています。
| 症状(縫い目の見え方) | 疑われる原因 | 先に試すこと |
|---|---|---|
| 布の裏に糸のわっかが余る | 上糸が弱い(下糸ではありません) | 押さえを上げた状態で上糸をかけ直す |
| 布の表に下糸が見える・浮く | 下糸が弱い | ボビンの向きと、糸をみぞに通し切っているかを確認 |
| 両面ともにもたつく | 上糸が糸調子皿に入っていない | 上糸を全部抜いて、押さえを上げてかけ直す |
| 糸端を引くと無抵抗で出てくる | 糸が板バネの下を通っていない | ボビンをセットし直し、道筋どおりに通す |
| 途中から急に糸調子が変わる | ボビンの巻きの偏り・釜の糸くず | 電源を切って釜を掃除し、ボビンを巻き直す |
| ボビンごとに調子が違う | 規格の違うボビンが混ざっている | 機種指定のボビンにそろえる |
| 目飛びしながらゆるむ | 針の向き・曲がり・摩耗 | 電源を切り、新しい針に交換する(向きは取扱説明書で) |
| 厚地だけゆるむ | 糸と針の番手が布に合っていない | 厚地用の針と糸に替える |
| 直したつもりが戻らない | ダイヤルを回して打ち消していた | 糸調子ダイヤルを標準の位置に戻してやり直す |
| 異音・引っかかりがある | 釜のタイミングのずれ | 使用をやめて、購入店やメーカーへ相談 |
この表で言いたいことをひとつに絞るなら、ネジとダイヤルは最後ということに尽きます。上の三行までで解決してしまう場合が本当に多いところです。
下糸のゆるみが直っても、別の症状が残る時
糸調子が整うと、それまで一緒くたに感じていた不具合が分かれて見えてきます。よくあるのが次の二つです。
ひとつは、そもそも針が動かない、動きが重いという症状。これは糸調子の話ではなく、押さえのレバー、はずみ車のつまみ、下糸巻きの軸の位置、安全装置といった別系統の原因であることがほとんどです。心当たりがあればミシンの針が動かない時に見るところのほうに、順番に確かめる形でまとめています。
もうひとつが、ボタンホールだけがうまくいかないというもの。直線縫いはきれいなのにボタンホールだけ乱れる場合、糸調子よりも押さえの取り付けや布の送りに原因があることが多く、見るところが変わってきます。こちらはミシンのボタンホールがうまくいかない時で扱っています。
それでも直らない時、そして買い替えを考える時
ここまでの手順を一巡しても表側に下糸が浮く、あるいは縫っている最中に急に糸調子が暴れる。そういう時は、利用者側で調整できる範囲を超えていることがあります。
- 釜に傷やささくれがある——糸が引っかかって、そこだけ抵抗が跳ね上がります。目視で分かることもあります
- 針板の針穴のふちが荒れている——針が当たった跡があると、糸を削りながら縫うことになります
- 糸調子皿のあいだにほこりや糸くずが詰まっている——上糸が効かなくなります。分解が必要な位置なら自分でやらないほうが安全です
- 長く使っていなかった機械の油切れ・固着——動きが渋いと、糸を送る力の伝わり方が変わります
- 釜のタイミングがずれている——調整には専用の道具と手順が必要です
異音がする、焦げたようなにおいがする、手で回しても引っかかる。この三つのどれかがある時は、そのまま使わずに電源を抜いて、購入店かメーカーの修理窓口へ相談してください。無理に動かすと、直せる不調が直せない故障になります。
そして、もうひとつ。修理の見積もりを取ってみたら本体価格に近かった、という展開もそれなりに起こります。年式が古い、下糸巻きも不調、部品の供給が終わっている、といった条件が重なった時は、買い替えのほうが現実的な場面もあります。ただ、ミシンは値段の幅がとても広く、安さだけで選ぶと結局使わなくなるところが難しいものです。そのあたりの見きわめについてはミシン選びで後悔しやすいところにまとめてありますので、直すか買い替えるかで迷った時にのぞいてみてください。
まとめ:下糸を疑う前に、布をひっくり返してください
- 糸が余っている面の反対側の糸がゆるんでいます。裏に余るなら上糸、表に余るなら下糸。ここを取り違えると、ずっと直りません
- 裏に余っていたなら、上糸のかけ直しが先です。押さえを上げてからかけないと、糸調子皿に糸が入りません
- 下糸側なら、ボビンの向きと糸の通し道の二か所。糸端を引いて一定の抵抗があれば、正しく通っています
- ボビンケースのネジは、垂直釜なら小さいほうだけ、少しずつ。水平釜は調整を前提にしていない機種がほとんどなので、取扱説明書の確認が先になります
- ボビンは機種指定のものを。厚みや素材が違うだけで、糸の出方が変わります
- 糸調子ダイヤルは最後。整っていない状態で回すと、症状を別の症状で打ち消すだけになります
- 針まわり・釜まわりにさわる前は、必ず電源を切ってプラグを抜いてください。フットコントローラーの誤踏みと、自動針上下への備えです
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切り分けの順番と、症状別に先に試すことを1枚の画像にまとめました。ミシンのそばに置いておくと、次に糸が浮いた時に上から順にたどれます。



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